2012年4月3日火曜日

最優秀作品 「ムウ」 大久保麻美(高校2年生)

八戸童話会 創作童話集 おとぎの森 No.4 より


タカシは、一面に草がひろがる野原を横切ろうとしました。それが家へ帰る近道なのです。

「あれ、おかしいな?今朝ここを通ったときは、こんな建物なかったのに。」

そこには、古めかしい小さなお店やさんが建っていました。タカシは不思議に思いながら、その店の窓からのぞきこみました。変な形のツボ、カメのおき物、ぶ厚い本、そのほかいろいろと不思議な物ばかりあります。

その中で、タカシは木でできている地球儀から目が離せなくなりました。

ギギギィィィィ、木の扉を開けて中に入ってみると、

「おやおや、珍しい。子供のお客さんだ。」

部屋の奥から、しわがれた声がしました。

そちらを見ると、白いアゴヒゲのはえたおじいさんが、イスに座ってこちらを見ています。

「おじいさん、僕、あの地球儀が欲しいんだ。」

「ほほう、あの地球儀か。」

「うん、いくらするの?」

「金か?金はいらん、お前さんにやるよ、持っていきなさい。」

そう言って、おじいさんはヒゲをなでました。

「ありがとう、おじいさん。」

タカシは手を振って、その店を後にしました。


家につくと、タカシはそっと自分の部屋へ行きました。

お母さんに、この地球儀が見つかったら、汚いから捨ててきなさいと言われるに違いないと思ったからです。

夏休みに入って5日目の日、タカシは、プールの帰りに猫を見つけました。

「お前、かわいいな。名前はなんてゆうんだ?タマかなぁ、ミケかなぁ。」

そう話しかけながら、猫の前にしゃがみこみました。

すると猫が、「俺の名前はムウだ。」と、日本語でいったのです。

タカシは驚いてしりもちをつきました。

「これは夢なんだ。夢なんだ。」

「夢じゃないよ。」

ムウと名のったその猫は言いました。

「なんで、猫のくせに言葉をしゃべれるのさ。」

タカシの声は震えていました。

「ジュンちゃんちの猫はニャーとしか鳴かなかったぞ。]

「俺は、金星にある学校へ通っていたから、そこで人間の言葉を習ったんだよ。他にも、二本足で歩く練習とか、空の飛び方とか。」

そう言うと、ムウは二本足で立ち、胸を張りました。

そのかっこうが、あまりにもえらそうだったので、タカシは思わず笑ってしまいました。それでもムウは、話しを続けました。

「タカシにたのみたいことがあるんだ。ここの近くに野原に建っている古いお店があるだろう。そこのおじいさんは、実は金星から来た旅人なんだ。地球に旅行しに来たはいいが、その時、地球のどこかに、金星に帰る扉の鍵をなくしてしまったんだ。」

「ええ?地球のどこかにだって?そんなの探すのが大変じゃないか。」

「そうなんだ。だからいっしょに探してほしいんだよ。この紙にその手がかりが書いてあるんだけど・・・・。」

そう言うと、ムウはタカシに白い紙を渡しました。そこには[南極]と書いてありました。

「ねぇ、なんて書いてあるんだい?俺はまだ人間の言葉を読む勉強をしていないんだ。」

「南極・・・・・だって、確かにここらへんに・・・・・。」

タカシは地球儀をぐるぐる回して、その場所をムウに教えてあげました。

「よしっ、そこへ行こう。」

ムウはタカシの手をとると、ツマヨウジ程度のピンクのステッキで、地球儀の南極の場所をさしました。

するとどうでしょう。体が地球儀の中に吸い込まれるではありませんか。


パッと目がさめると、そこは雪だらけの所でした。寒くて寒くて、ガチガチ震えてしまいます。

「ムウ、早く帰ろう。」

そう言ってムウを見ると、ペンギンと話しているムウも震えています。

「うん、早く地中海へ行こう。ペンギンが[地中海にあるらしい]って教えてくれたんだ。」

タカシは腕に抱えていた地球儀をグルグルと回して、地中海を探し始めました。

「あった。」

そう叫ぶと、ムウはまたさっきのように、ピンクのステッキをそこへさしました。

ザザザンザザザンザザーン。波の音でハッと我に返ると、海のど真ん中にいました。

どうやら、クジラに乗っているようです。ムウはなにやらクジラと話しています。

タカシは怖くなりました。なぜから、泳げないからです。それにお腹もすいてちからがでません。

「ムウ、怖いよぉ、お腹すいたよぉ。」

「まぁ、ちょっと待って。」

ムウは一通り話が終わると、クジラに合図するかのように、パンパンと二回背中をたたきました。

すると、クジラは噴水のように[しお]を噴き出し、ムウとタカシはポーンと飛ばされて、スタッとイスの上に着地しました。目の前には、ごちそうが並んでいます。

「ここの魚料理はうまいんだよ。」

とムウは舌なめずりをしました。食べながら、ムウはクジラからきいた話しをしました。

「アメリカだ。潮の流れでアメリカに流れちまったようなんだ。」

「僕、アメリカの位置なら知ってるよ。」

「じゃあ出発するとしよう。]

気がつくと、タカシはずい分と高い所にいました。

遠くにあるたくさんのビルもはっきり見ることができます。

ムウは、今度は小鳥と話しをしています。

ここはどこだろう?タカシはキョロキョロと辺りを見まわしました。下をのぞき見ると、大きな目が二つ。

[ここは、自由の女神像の頭の上かぁ]

と分かると、タカシは妙にうれしくなりました。前に一度テレビで見たことがあるからです。ドキドキしていると、ムウが叫びました。

「次はオーストラリアだ。女の子が風船に結びつけて飛ばしてしまったらしい。さぁ、行こう。」

「ちょっと待って。」

「なんだよ。まだ腹がへっているのかい。」

「そうじゃないんだ。僕は自由の女神様様に別れのあいさつをしたいんだ。」

ムウにつかまって空を飛びながら、タカシは女神様の頬にキスをしました。

「アメリカの人って、こうやってあいさつするんでしょ?」「さぁな。」

そろそろオーストラリアへ出発です。

オーストラリアではムウはコアラに尋ねているようです。その頃、コアラのようにユーカリを食べてみたくなり、手を伸ばしていました。コアラの食べているのを見て[おいしそうだ]と思ったのでしょう。

「にがいっ。」

ペッとそれをはきだしてしまい、[チョコレートの方がうまいな]とブツブツ言っていると、ムウは力なく言いました。

「今度は日本だ。」

「に、にほん?」

「うん。渡り鳥がくちばしにくわえて持っていってしまったんだって。」

日本に着くと、ムウはさっそく猫や犬にききまわりました。けれど、みんな首をふるばかりです。とうとうムウは泣きだしてしまいました。

「ムウ、元気だしなよ。きっと見つかるよ。」

タカシは励ましましたが、ほとんど鳴き声です。二人は泣きながら家へ帰りました。


夜、窓ごしに星をながめながら二人は様々な話しをしました。

「ねぇ、ムウ。ムウはすごいね。いろんな動物と話しができちゃうだもんなぁ」

「なんでタカシはできないのさ。」

「なんでだろう・・・・。あっ、流れ星。流れ星にお願い事三回言うと叶うんだってよ。」

「鍵が見つかりますように。鍵が・・・・・ああぁ、もう消えちゃったよ。」

ムウとタカシは深いため息をつきました。と、その時、タカシは庭の木の枝に、キラリッと光るものを見つけました。

「ムウ、ムウ、あそこの枝で光っているの何かなぁ。」

ムウは飛んで行って、それを手に持つなり叫びました。

「おぉ、これはあの扉の鍵だ。やった、やったタカシ。ヤッタゾ。」

それは、まさしくきれいな彫刻のほどこされた扉の鍵でした。ムウとタカシは跳ね上がって喜びました。けれど、ムウも金星に帰ってしまうと思うと、タカシはとてもかなしくなりました。

次の朝、ムウとタカシは、その鍵をおじいさんの所へ届けました。

「ムウ、よくやった。お前の望みを一つ叶えてあげよう。」白いあごヒゲのおじいさんは、とてもうれしそうにそう言いました。

「はい、わたしの願いは・・・・・。」

ムウは、おじいさんに耳うちをしました。

金星へ帰る扉が開かれました。中からは虹色の光が輝いています。お別れの時です。

「また会おう、タカシ。」

ムウとおじいさんは、光の向こうへ消えました。


翌朝、あの古いお店のあった場所へ行くと、そこにはもうなにもなく、ただ、気持ちの良い風がそよそよと草の上を吹き抜けて行くばかりです。「ミュー」。風の音にまじって子猫の声がしました。そこへ近寄ると、ムウにそっくりの猫がいます。

「ムウ!お前、ムウじゃないか。」

「ミャー。」

タカシは、その猫に[ムウ]と名付け、抱きかかえながら家に帰って行きました。